04/04/2006    王子よ、再び。
・・・王子といえば、このかたも、久しぶりの登場です!



昨日、「TBS新訳・星の王子さま」の完走、パイロット賞記念としてこの監修の三野博司先生、直筆サイン入りの「星の王子さま」の本が届きました。先生ならびに関係者のみなさん、ありがとうございました。
さっそく、昨日一日で三野さんの新訳を読み終えた感想など、僭越ながら少し記します。
もうネット上で得られるいろいろなレビューや「星の王子さま」関係のサイトなどで新訳の読み比べや批評などをそれなりに目にしてきたのですが、一冊まるごと「星の王子さま」を読んだのは、あと内藤濯さん訳だけです。他のかたがたの新訳は読んでいません。

この企画が終わってからも前記事の「取材」で答えている通り(笑)、「Le petit prince」の原書を読み直しました。今、他にも読んでいるフランス語の本やテキストがいくつかあるのでゆっくりペースですが、只今2回目です。真ん中を過ぎたくらいのところです。
改めて何度も原文をシツコク(笑)読んでいる身のものとしても、三野さん訳は原書を読んだときに受ける感じに近い訳だと感じました。

実際にプロジェクトに参加しているときに訳しながら、どうして内藤濯さんの訳がこうなったんだろう? と、なにか日本語のモヤっとした部分がクリアになったのは事実です。

いろいろと面白いと感じたフレーズがあるのですが、前半の部分で「なるほど」と感じたところを書き出してみます。

まず、3章のパイロットの語りの部分・・・

Je désire que l'on prenne mes malheurs au sérieux.


★内藤さん訳 : 天から落ちるなんて、ありがたくないことなんですから、しんけんに考えてもらいたかったのです。

★三野さん訳 : その時、僕がどれほど情ない気持ちだったか、君たちに真剣に考えてほしいものだ。
ここで内藤さんの訳では主語のonが曖昧(文脈から王子を指しているように感じます)ですが、三野さん訳では読者への呼びかけだということがはっきりとしました。 désirerの時制もこちらは現在形で忠実に訳されていると思います。

そして同じ3章の王子さまのセリフ・・・

C'est vrai que, là-dessus, tu ne peux pas venir de bien loin…

★内藤さん訳 : そうか、じゃ、そう遠くからきたわけでもないな・・・

★三野さん訳 : そうだよね、これじゃあ、そんなに遠くからはやって来れないね・・・

このフレーズ、内藤さん訳のほうは王子さまが独り言を言っているようなニュアンスが強いですね。こちらも三野さん訳はpouvoirの動詞が生きた訳になっていると思いました。là-dessusの部分もちゃんと文に生かされていると感じました。

7章の王子さまのセリフも。
 
Et si je connais, moi, une fleur unique au monde, qui n'existe nulle part, sauf dans ma planète, et qu'un petit mouton peu anéantir d'un seul coup, comme ça, un matin, sans se rendre compte de ce qu'il fait, ce n'est pas important ça!

★内藤さん訳 : ぼくの星には、よそだととこにもない、めずらしい花が一つあってね、ある朝、小さなヒツジがうっかり、パクッとくっちまうようなことがあるってこと、ぼくが ―このぼくが― 知っているのに、きみ、それがだいじじゃないっていうの?

★三野さん訳 : もし、ぼくがこの世でただ一つの花、ぼくの星以外のどこにも咲いていない花を知っていて、ある朝、小さなヒツジが、自分が何をしているのかわからないまま、ひと口でその花を消滅させてしまっても、それが大事じゃないって言うの!

この文はちょっと長いのですが、三野さんの訳はフランス語の語順に沿った訳なので、実際にフランス語で読んだときに受ける感覚に近いのです。
anéantirを「消滅させる」と訳したのは硬い印象を受けるかもしれないのですが、この訳語は仏和に載っているとおりの表現、それに対して内藤さんは噛み砕いた訳で「パクッとくっちまうようなこと」としていますね。
この部分で一番大きな違いは動詞connaitreが何を受けているのかという解釈でしょう。
内藤さんは「ヒツジがくっちゃうようなこと」を受けた訳文にしていますが、三野さんは「花」を受けています。読解的には三野さんの解釈が正しいと思います。
実はこの王子のセリフを内藤さん訳で初めて読んだときに、わたしはすごくグッときたんですけど、今こうして原文や他の訳者さんのものと読み比べると、ちょっと意味が違っていたようで、アレって気もします(涙)。
内藤さん訳の「ぼくが ―このぼくが―」ってあたりの溜めも好きだったんですがね・・。 

他にもいろいろと気になる箇所がたくさんあるのですが・・・三野さんの訳の感想としては、登場人物のセリフに気品が感じられるということでしょうか。内藤さんのユニークな語り、特に星巡りの章のキャラたちの滑稽な感じがなく、人物が堂々とした感じ。
パイロットも内藤さん訳のほうはシャイで大人になりきれない人というイメージが強かったのですが、三野さんのほうは語り口も重々しくしっかりとした印象。
肝心の王子さまはというと、やはり三野さんのほうが「大人」の王子さまでした。

翻訳を「宝石の加工」にたとえてみると、三野さん訳は「原石のまま形になった訳」という印象です。言葉を付け加えたり、噛み砕いたりせず、もとの形(フランス語)をそのままストレートに生かしているというか。だからフランス語を読むことが出来るかたにとっては、読んでみると「なるほど」と思う部分が多いのでは。
一方、内藤さん訳は「磨いたり削ったりした訳」という感じかな。それぞれ読み手の好みが分かれるところでしょう。訳者さんのスタンスによるものも大きいと思いますが。個人的には三野さん訳を読んだことによって頭がスッキリとしました。

もし、これから「星の王子さま」の原文にチャレンジしょうというかた、フランス語の勉強のためにこの作品を読みたいというかたには、三野さん訳がわかりやすいのでは?
わたし自身にとっても、これからフランス語の訳し方のシンプルなお手本になりそうです。
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