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私を裁くために

このタイトルでお気づきでしょうけど、「異邦人」を読みます。(なんか、久々かも?) 王子に比べると、こっちのムルソーのほうは影が薄いような・・・、いいんです。地味にやります(笑)。

さて、今日はママンのお通夜のシーンです。眠ってしまったムルソーは人の気配で目を覚まします。ママンの友人たちが部屋に入って来たのです。彼らの様子はというと・・・

ils glissaient en silence dans cette lumière aveuglante.

黙ったなり、このまばゆい光のなかへ、すべりこんで来た。

ここで黙ったなりと訳されているen silence を仏和で引くと、静かにものを言わずに黙々とひそかに逆らわずに、といろいろな意味が載っていました。どの言葉を選ぶかによってニュアンスが変わってきますね。

隅々まで初対面の彼らをじっと見たムルソーですが・・・

Je ne les entendais pas et j'avais peine à croire à leur réalité.

声が耳に入らなかったので、現実に彼らがそこにいるとは、信じにくかった。

leur réalitéは直訳すると彼らの現実ってところでしょうかね。
それにしても、この窪田啓作の訳にしても「星の王子さま」の内藤濯にしても句点が多いなぁ。ちなみに前者は昭和29年、後者は1953年(昭和にすると何年?)に初版が出ているので、当時の日本語って今よりゆったりとしていたのかな・・・なんて考えてもみたりもして。それだけにひとつひとつの言葉に重みを感じたりもします。

ところでこのシーンでのムルソーは、ママンとの思い出に浸ったり、自分のなかに沈み込んだりといった心持ではないようです。ママンの友人たちを実に冷静に観察して、こんなことを考えています・・・

Je n'avais encore jamais remarqué à quel point les vieilles femmes pouvaient avoir du ventre.

私はこれまでばあさんたちの腹がどれほどつき出ているか、気に留めたことはなかったのだ。

les vieilles femmesはここでばあさんたちと訳されていますが、フランス語のレベルとして失礼な呼び方なのでしょうか? 単数に直すと、la vieille femmeになりますが、これは一般的におばあさんと言いたいときに使う表現で、ここでばあさんとくだけた感じで訳されているのは、ちょっと強引な気もします。くだけたいときはla veilleと言います。こうすると丁寧さには欠ける呼び方になります。話し言葉で親しみを込めて、おばあちゃんと言いたいときは、これにbonneをつけて、bonne vielleとすると失礼にならないそうです。ちなみにveilleの後に雌のヤギbiqueをつけると、くそばばあになるそうです。なぜ、ヤギ???

あと、avoir du ventreで、腹が出ているという表現になります。今、仏和で名詞のventreを調べていて面白いと思ったのは、慣用句でavoir quelque chose dans le ventre、これは直訳すると、腹になにか持っているといった意味になりますが、実は、やる気がある意欲がある、という意味だそうな・・・なんだか日本語の観念でいくと理解しがたいですね。一瞬、裏表があるっていう意味かと思いました(笑)。

一通り、老人たちを観察し終えたムルソーは、こんなことまで考えてしまいます・・・

J'ai eu un moment l'impression ridicule qu'ils étaient là pour me juger.

彼らが私を裁くためにそこにいるのだ、というばかげた印象が、一瞬、私を捕えた。

この窪田啓作の訳いいですね。J'ai eu l'impression queを、印象が私を捕えた、としています。これはもっと自然に訳そうとすれば、私は~な気がしたというふうにもできるのですが。こちらのほうが緊張感を感じさせますね。

ところで、ムルソーという人間像について考えてみるとき重要なキーワードとはなんでしょうか?  幾つか思い浮かぶのですが、実はそれはわたしが最近「星の王子さま」について考えるときのキーワードと同じなのです。そのキーワードとは、ずばり「愛」です。「星の王子さま」は「愛」とは何か? ということを考えさせられる物語だと思います。一方、ムルソーにはこの「愛」という感情とは無縁の存在です。
わたしは10代で「異邦人」を読み、20代で「星の王子さま」を読みました。多感な頃に、この愛の欠落したムルソーを知って衝撃を受けました。よく考えることなのですが、これがもし逆だったらなぁ、最初に「星の王子さま」と出会っていたら、わたしの人格形成にもっとよい影響があったのになー(笑)、などと考えることがあります。もちろん、他にもそれなりに、いろいろな本を読んできましたが、わたしは漠然としたフランスのイメージとして、「異邦人」の影響を受けています。あと、その周辺の例えばサルトルとか、倉橋由美子の初期のフランスかぶれ丸だしの小説とか(この表現はいけませんかね?)、安部公房とか(彼も仏文科だったような・・・)、あとまぁ、渋澤龍彦とか、10代の頃は背伸びしてそういうのを読みたがっていたのです・・・いや、いや。。。今はそうでもないし、音楽でもなんでも年代と共に嗜好が変化していったので、そういうものをとてもここで網羅できないのですが、フランスのイメージというのも多種多様で、日々イメージなんてものは自分のなかでも変化していっているし、だいたいフランスっていっても地方によっていろいろだし、年代によってもいろいろなので、漠然と「フランスって・・・」っていうのは今更ないのです。「フランス人はこうだ」とか一般論では言えないと思うのですよ。ま、そんなのあたりまえだって感じですけど、でもステレオタイプの人は案外いるのかもしれないし・・・ね。ま、ちょっと語ってしまいましたが(笑)、収集がつかなくなってきたので今日はこの辺にしておきます。

本当にスローペースのこのカテゴリーですが、気長にやりますので。。。今日も読んでくれた方、ありがとうございました!

2005年08月25日 | 「異邦人」を読む | こめんと 2件 | とらば 0件 | とっぷ

コメント

こんにちは。
最近フランス語を忘れかけているので、しゃるろっとさんのブログを読んで勉強しています。「avoir du ventre」で「腹が出ている」なんですね。どこに、「出ている」という意味が含まれてるんだろう?なんて思いましたが、遠慮がちな控えめな表現が逆にいい感じですね。これからもフランス語勉強続けまーす!

2005年08月25日 / MARCH #-URL編集

MARCHさんへ

こんにちは!
最近なんて、まだお帰りになったばかりではありませんか???
やはり、フランスでは大変だなーって思っていても、日本に帰ってフランス語のない生活もなにか淋しい感じがするのでは?
わたしの勘違いや間違いなど見つけたら、ご指摘くださいね。読んでくれてありがとうございました!

2005年08月26日 / しゃるろっと #-URL【編集

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